丸日記

丸海てらむの日記です

温い雨

100日は続いた雨の中、最後に晴れていたのがいつだったかもわからない。

濡れた服が水の中のよう、他の人は重たそうにしているが、僕にはそうでもない。

傘をさす人、ささない人、フードをかぶって歩く人、

誰も喋らない街の中。いつからこうかは知らないが、けっこう気分は悪くなかった。

 

ある日喉から咳が出て、日に日にそれが増えていく。

痛みと喘ぎの中だけど、他の人ほどには苦しくない。

暗くて重い雨の中、泣く人もいれば倒れる人も、動かなくなった人もいる。

口元を拭うと赤黒く、初めて見るが、まだ生きてるから大丈夫なのだ。

咳をして、吐き捨てて、身震いしながら、今日の雨は暖かいなと思っていた。

 

どうして僕だけ平気なのだろう。

みんな泣いている。

腕を抑えて、互いに抱き合って、慰め合って、

どうして僕は耐えていられるのだろう。

 

 

 

あるとき空が明るくなって、

雨が止み、光が差して、まぶしくなって目を閉じた。

乾いた空気が喉を刺す。

雨音が止んで、人たちの声が聞こえ始めた。

僕は目を開けられず、耳を塞ぎ、

暗いところを探してうずくまっていた。

 

笑い声、駆け回る音。泣いている人はもういない。

 

僕は今もまだうずくまっている。

やっと寒さに気づいて、冷えた体を両手で抱いて、

いつか光に目が慣れたなら、

誰かの目をちゃんと見てみたいなと思いつつ。

陽の照り返る街の中、日陰も暖かいこの街で。